『焔の舞姫』(藤宮彩貴/富士見L文庫)

富士見L文庫

鞭展開度:★★★☆☆
こじか度:★★★★★
舞姫度:★★★★★

【あらすじ】
都よりほど近い淡海国に住む、やせ細った鹿のような姿から「こじか」と名付けられた少女。跳躍力が人よりも酷く優れるために異形扱いされ、両脚には足枷の砂袋をくくりつけられ育った。
ある時都より、頭中将のタケルがこじかの元を訪れる。宮中の舞姫にする為、右大臣家で引き取るというのだ。ともに都へ向かうが、過去の心の傷により炎を嫌うこじかは、闇夜で炎を灯す五節舞で踊れるはずもなく――⁉

いや~、面白かったぁ✨

基本的に平安時代が舞台の話に苦手意識があるんだけど(単語の読みや意味が覚えられなくて小難しい印象があったり貴族の嫌がらせが大人しいクセに陰険過ぎて生理的嫌悪を覚えたり)、この話については平安時代『風』と銘打ってるだけあってオリジナル要素があったり文章がシンプルだったりで非常に読みやすかったです。ありがてぇ!!!

跳ねっかえりの強い主人公が久々で楽しく読ませていただきました(`・ω・´)

 

 

以下ネタバレあり↓

 

砂袋の足枷をつけられ、ただ働きをさせられ、髪を使用人頭に摑まれる「親なし子」のこじかという冒頭。もう初っ端から重い。

しかし跳ねっかえりの強いこじかはただそうして心をすり減らすのではなく内心で反抗しています。

 

こういった主人公の作品をここ最近あまり読んでいなかったので、新鮮なような清々しいような気持ちで読んでました。何年もこんな目に遭っていたら精神がすり減って従順になって思考を放棄してもおかしくない、と思っているのでそうした主人公が人間らしくて好きなのですが、こうした主人公もまた楽しいですねぇ(笑)

「こじか」という名前がまたシンデレラ(灰被り)並みの蔑みを感じるのですが、いい意味で彼女に合っていてそこもまた楽しいなと。

『焔の舞姫』はまさしくシンデレラストーリーだと思っています。……ただしそのシンデレラは異能を宿し負けん気が強く幼い女の子だし蔑みの各所から来るハードシンデレラストーリー。結構自力で何とかせにゃならん(真顔)。

 

そんなこじかの元に表れたのが頭中将のタケル。

……うーん、正直めっちゃ怪しいって思ってた(笑)。

初対面から端女であるこじかにいきなり優し過ぎるし舞姫として担ぎ上げているしアケノの言うように都なんていいところじゃない。

メインヒーローではあるんだろうけど、まだ信用できんよなぁ……なんて考えていたワケでしたが。

 

私の心が淀んでいるだけだった(土下座)。

 

いや、だって今まで読んできた小説や乙女ゲームで最初っから主人公に優しい人はみんな裏があったんだもん!!!(汗)

……とそれはさておき、タケルは最初から最後までずっとこじかに誠実で、端女でみすぼらしい姿のこじかにも着飾って美しくなったこじかにも変わらず優しかったです。……この手のヒーロー、今まであんまりいなかったからなぁ……(小声)。

 

さてそうしてタケルの家に連れられたこじか。

さぁタケルが親切だとはそのご両親までも優しいなんてこと……あったよコレが。

タケルといいそのご両親といい、いくらこじかが舞姫としての優秀な人材とはいえ、ここまで丁寧に扱ってあげられる貴族ってなかなかいないのでは、と感心せずにはいられませんでした。北の方、御自らこじかの身体を洗ってあげていた……。

 

しかしこじかの跳ねる姿を屋敷の者に見られてしまい実の父親の家へ追いやられる展開に。正直そういうの待っていた。←

 

タケルの家の者たちよりも実の父親のところの方が酷かったですねぇ……( ̄▽ ̄;) 何よりシンデレラと思った要因。

 

確かに思い返してみれば、こじかがそんな風に人間離れした跳躍力を持っているなんて前情報なく見せられては怖がるのも道理だし、タケルの妹は天狗に攫われている。頭中将家の皆様が態度を一変させるのも分からなくはない。(まぁあれだけ優しくしてくれていたのにそのひとっ跳びでここまで拒絶されるのかと悲しくもあったけれど……)

比べて実の父親はなかなかにくすぶっててアレだったし継母と義姉が……ねぇ……?(言葉を濁す)

しかし「タケルは必ず迎えに来る!」と豪語してこじかはその家にしがみついてやります。

この泥臭さがいいよなぁ……!!!  義姉に命じられた理不尽な仕事をこなしながらも心の火は消えておりません。心を燃やせ。違う、それをパクりたかったんじゃない(真顔)。

 

そうして登場するのが私の最推し幸若でございます。

 

もうね、めっちゃいい子。めっちゃかわいい。あの荒んだ家庭環境の中でよくぞその純真さを保ち続けてきた、幸若。

義姉の八つ当たりぶりに「うわぁ……」となっていただけに、お菓子につられたりこじかの跳躍にはしゃぐ姿は純真な子どもらしく本当に癒された。……最近子どもに本当に弱いんだよなぁ……(しみじみ)。

 

そんなワケで、こじかと幸若の生活ぶりがとても微笑ましくて。

こじかは相変わらずの端女生活ですが、ガツガツそれに取り組んで成果を出しているし、舞の練習だって忘れていない。幸若に教本を読んでもらってサポートしてもらう。

……何この異母姉弟、めっちゃかわいい……。

 

しかし油断できないのがこじかの眠る厩に火を放る義姉以上に宮。

……いやぁ、初登場時から本当に油断ならないなぁというか( ̄▽ ̄;) まぁ平安時代的なお話において宮はそういうもんだと相場が決まっておる……。

皇太子とは思えないほどのフットワークの軽さと神出鬼没さでこじかを翻弄していきます。いやあの飄々とした感じが1番の問題か?www 完全に遊ばれているこじかであります。

 

ただ、宮もみすぼらしい格好のこじかに対して一切嫌悪感を見せなかったのはすごく感心していたり。

あぁいうのって、そう思わないようにしていてもずっと清潔な場所で生きてきた人からすれば反射的に「うわっ」てなっても仕方ないところあると思うんだよね。だから内心どうだかはさておき、タケルであれ、そのお母さんであれ、宮であれ、嫌な顔ひとつせず自分の手で洗ってやることまでできるのって本当にすごいことなんだよなぁ。

 

しかし宮は決してタケルの味方ではないのもまた事実。

こじかを問答無用で連れ帰ろうとする宮――アカツキから幼いながらに異母姉のこじかを守ろうとする幸若が本当に健気で愛おしい (ノД`)・゜・。

しかも言ってることがめっちゃ正論なんよwwwww 宮含めみなさん見習ってください、そして幸若を人質に取った宮許さん( ̄▽ ̄)

 

そしてこういう時にタケルが来るのが本当にズルイよなぁ……!!! ……このあたりで私ももうタケルを信じ切っています(笑)。しかも右大臣、こじかが追い出したのが試していただと(真顔)。

 

そうして無事またタケルの庇護下になったこじかですが、この物語全体的に主人公のこじかが自分自身で頑張らなくちゃいけない展開になっているのがとてもツボです。

舞ともなると話が別だからめちゃくちゃ勉強も稽古もするし火へのトラウマもあってどうにかそれを解消しようと頭をひねりまくるし頭中将の舞姫としてふさわしくなるよう言葉遣いや所作だって姫君らしいものになるよう努める。才能だけでどうにかなる世界じゃないし、才能だけで周囲も自分もどうにかしようとしない。……いやまぁ大抵の物語はそうなんでしょうけど(笑)。

でもこういう、自分の手で何かを掴もうと這いつくばってでもやり遂げようとする姿が本当に好きなので改めて書かせていただく(`・ω・´)

「母やアケノの子どものちゃんとしたお墓を作って弔ってもらう」だとか「父親に母のことを謝ってもらいたい」だとか、目標も明確でまたいいよなぁ。

 

個人的に新鮮だなぁ~と思ったのは、こじかが火を克服するタイミングですかね。

五節舞の直前か、もしくは五節舞の本番中に克服するような何かがあるのかと思っていたんだけど、むしろ直前では他の舞姫たちの嫌がらせで火を近づけられて気絶し(かわいそ過ぎるやろ……)、本番では日蝕の中風が強く火がつけられない状況の中での舞となり。

「そこでトラウマ克服するんじゃないんだ!?!?!?」……と大変面白かったですね(笑)。日蝕の中での舞というシチュエーションがこれまた面白かった。

 

こじかが舞う時の描写がまた素敵だったなぁ……!!!

どんな動作なのかよりもどんな思いで舞っているかが伝わってきてグッときました。羽衣がまたいい効果を発揮しているんだ(笑)。

まさか他の舞姫たちとここまで協力できる流れになるとも思わず。。。確かに今まで年の近い女の子の友達がいなかったようなので心温まりました。

 

 

最後の方で母の死の真相、天狗の一族のことやゆきの秘密などがドッと分かる展開ですが、不思議と情報過多で頭がパンクするということはなく。
むしろそういった何もかもがスッと入ってきて最後は何もかもがスッキリしました。

『焔の舞姫』というタイトルだけ、こじかは日蝕の中踊っているし天狗としての能力も炎ではないから微妙にしっくりこなかったんですが、それはそれ。あの火事の中跳んでいたからそれかな……? とか思ってみたり。

 

個人的にはタケルとゆき――こすずを火事の中から救出した時点でこじかが天狗の力を失っている展開が好きなんだけど、天狗云々の秘密がもっと知りたいし、何よりこれから先のタケルとこじかが是非見たい……!!!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

「タケル、寒くないか? おなかは空いていないか? 足りないものはあるか?」

「こじかが足りません」

……もうたまらんよ!!!!!!/////

この2人についてはこじかの方はずっとタケルのことを好きそうな感じだったけど、タケルはどうなんだろ……? と思っていたんだけど、こじかにちょっかいを出す宮にどこかピリッとしていたり裳着を終えたこじかに対して線引きをしていたり。このじれったいような感じがたまりませんでしたねー(*ノωノ)

 

「わたしは、あなたの姿を誰にも見られたくないのです。宮にも」

 

「苦しいのです。あなたを、宮中へ上げたくない。誰にも見られたくない。こすずを……こじかを見つけて来たのは、このわたしだ!」

 

ずっと品行方正な貴公子、好青年に見えていた外殻がボロボロと剥がれていく感じがたまんなかったなぁ。こじかがまた何をもってそう言っているのか分かっていない感じにじれったさが相まって。

 

そんなワケで、例えば今度はこすず主人公で続編が出たりしても楽しそうだよなぁ。時折タケルとこじかのその後を見せてくれればそれで(笑)。

てっきり人外だと思っていた天狗が異国人だったということで新鮮な驚きがあり、彼らのことももっと知りたいというのもあり。別の小説で外国人を「鬼」と称した話があったのですが、こっちは天狗なんだー……!!!と何故かテンション上がっておりました(笑)。

 

こじかが最後に天狗の力を使い果たし失うこと、結局は「こじか」という名前に戻ること、そういった締め方がとても好ましい作品でした。そういう展開だから好きというよりはそういう主人公だからこういう終わり方がバシッと決まるよね、ということでひとつ。

 

 

余談。
いつもブログ記事をスマホで打っているのですが今回PCで打ってみたらめちゃくちゃ時間かかりました、次回からスマホに戻します(遠い目)。

 

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