『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』(森山光太郎/メディアワークス文庫)

メディアワークス文庫

鞭展開度:★★★☆☆
それぞれの思惑度:★★★☆☆
少女の覚醒度:★★★☆☆

【あらすじ】
男子だらけの名門校に少女が潜入!? 陰謀渦巻く、壮大な学園ストーリー!
王立士官学校≪黒の門≫。全土から集まる優秀な生徒たちの中に華奢な美少年が一人。イェレミアス・リーヴライン──真の名はアリシアという。その正体は少女だった。
アリシアは入学早々、有力子弟の一派に目を付けられてしまう。立身出世が約束される学園生活。正体を隠しつつ無事卒業しなくてはならない。
だが彼女にも心強い仲間が。常に寄り添う従者ジークハルトに、腕の立つ少年ユスフ。そして彼女自身にも秘めた才能があって? 陰謀渦巻く壮大な学園ストーリー開幕!

 

めちゃくちゃ面白かったー!!!!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

男装女子・主従・騎士・戦闘・国を揺るがす陰謀。みんな大好き要素が詰まりまくってる(`・ω・´)

表紙イラストに目が吸い寄せられ(あの読先生!✨)タイトルに惹きつけられあらすじを読んでノックアウトでした。《黒の門》ってネーミングセンス良過ぎじゃない?(真顔) 最早ひれ伏すしかない面白さ。

この本を立てかけて置いてくれてた書店さん、ありがとう……お陰で目につきました。

 

以下ネタバレあり↓

 

 

島を治める父と母の対立によって内乱が生じ、王家に滅ぼされることを阻止するべく戦を終わらせたもののお互い以外の肉親をすべて失ったイェレミアスとアリシア。もうこの時点で重い(※褒め言葉)。

本当に、希望とは呼べないスタート地点から始まるんですよねー。でも希望でいなければならないというイェレミアスのキツさたるや。そのあたりのことが、イェレミアス目線でしっかり描かれててめちゃくちゃ感情移入してました。

そしてこの時点で、「あ、この話は『すごい人達の物語』じゃないんだな」と思ったり。

いわゆるエリート学校が舞台だったり、本の帯に「落ちこぼれ生徒の正体はスーパーガール」って書かれてたりしたので、そういう物語なんかな? とぼんやり予測しながら読んでたワケなんですが。

例えどれほど才能があったり、先を見通す慧眼を持っていたりしたとしても、みんな人間なのだな、と思える物語なんだと考えを改めました。

 

個人的には、それはすごく新鮮な感覚でした。

私は基本、「できない人が何かをできるようになっていく」物語が大好きです。はじめから上手くなんてできなくて当然だし、人間なのだから当たり前に傷付くし悩むし間違えたりもする。そういう人間らしい完璧じゃなさを愛しています。

ただこの物語の場合、登場人物は「既にできるようになっている人」がほとんどです。そりゃそうですよね、立身出世を狙う名門校で、平和が密やかに瓦解しつつある時代なのだから。

しかし、実力があってもそれを使いこなせているかはまた話が別だとか、精神が未熟だから端から見たら愚かだなって間違いを犯したりだとか。

「完璧な人間」をまったく置いてない話なんじゃないかな、と思えました。……いや、限りなく頂に近い人間はいるんだけれど、その思考を覗いてみるとすごいはすごいんだけどきちんと考えを巡らしている『人間』なのだと思えるというか。バトゥあたりがそうですね。

 

アリシアの初っ端での兄への依存度の高さがたまんなかったなー(。-_-。)(とんでもない性癖をぶちまける)

島民に新たな騎士としてお披露目をしていたイェレミアスにまず無言でしがみつく。大変良き(`・ω・´)

駄々をこねる子どものようなことをしているけれど、状況を分かっていないワケではないことが何とも切ない。

 

「出世なんてどうでもいい。なんで私が兄様と離れないといけないのよ。一年に一度しか会えないなんて、絶対に嫌」

 

「それならばうるさいジークだけを行かせればいいじゃない。島も静かになるわよ」

 

「兄様よりも才ある者でなければ、仲良くできない」

 

兄への依存度が高く、わがままで意固地な面を見せるこのあたりがもうかわいかったー(。-_-。) 完璧じゃない女の子主人公、万歳でございます👍

イェレミアスもアリシアに伝えるワケにはいかないだけで物凄く思いが深いんですよね。もうお互いたった1人しかいない肉親なんだもんな。一緒にむごい騒乱を駆け抜けて来たんだもんな。

 

そういえばこのアリシアという主人公でちょっと珍しいなーって思ったのが、「物語が始まった時点でもうその才覚を失っている」というところ。私はあまり見たことがなかったです。

だから我々読者も、《黒の門》でアリシアに出会った生徒達同様、騒乱でのアリシアを知らないんですよね。《黒の門》でただ1人その様を目の当たりにしてきたジークだけがやきもきしている。

主人公の飛び抜けた才能を読者すらもまだ知らない、まったく実感できていない、というのは珍しいのかなと思いました。私的には新鮮だったのでめちゃくちゃ楽しめました(笑)。にしてもパニック状態の時の行動が本当に読めなくてハラハラする( ̄▽ ̄;)

 

ジークがこれまたいいキャラしてますよねーwww ランス島騎士兄妹との遠慮ないやり取りにホッとする( ̄▽ ̄)

それでいて、ものすごく深く彼らを慕っているのがまたいい。それ故に今後辛い道を歩くことになるのは不可避なんだろうけれど。。。

 

あと少女小説脳的には(笑)ジークはアリシアを従者としてめちゃくちゃ大事にしつつ恋愛感情もあったりするんかな〜とか思ってみちゃってたんだけど、まったくそんなことはなかった……!!!www

どっちかというと手のかかる子どもの面倒見てるような感じなんだよなー( ̄▽ ̄) 彼は最早ママであります👍

あと息をするように金勘定が早くて笑うwww 完全に家計簿を開いてるママwwww

 

そんなママ(笑)に手のかかる子どもがもう1人できてましたねー。それがユスフ( ̄▽ ̄)

表紙イラスト見た感じ普通に格好いいと思ってたんだけどあれ?? 山高帽だっせぇの???www

……と困惑した記憶がございます。いやそれはいい。

 

他の生徒達が皆ランス島の主従を忌避したり馬鹿にしたりする中、初っ端から2人に好意的なユスフ。

お高く止まった生徒達とはソリが合わないからアリシア達を気に入ってくれたのかなーぐらいにしか思ってなかったのですが、もっと重たい理由が。

 

 決断は容易だった。
(パスカルは、二度裏切らない……)
 心で呟いた言葉は、幼い頃から染み込まされてきた先祖代々の家訓であり、何よりイェレミアスを助けると決めたのだ。

 

一族の戒めであり、自分の意志であり。

このあたり、人って表面通りの中身ではないんだよと教えられた気分でした。ユスフに限らず、みんなそうです。イスカンダル王国物語は、そのあたりを1人1人惜しみなく書いてくれているな、と思いました。めちゃくちゃ1人1人に対して解像度高いというか。

 

さてさてそんな『イスカンダル王国物語』、少女小説脳を排除して真剣に読み進めていたのですが、恋愛がないワケではなかった。

めちゃくちゃちょびっと片鱗が見えただけですけどね!www なかなかの微糖。

いきなりきたので私的にはうれしいびっくりだったー……!!!

今後こっちの方も密かな楽しみだなーと思ったり。アリシアはユスフにそういう意識は向けていないけれど(そんな余裕がそもそもない)。

それと個人的にはそのあたりの描写が新鮮で楽しくて何度も読み返していました(笑)。「なぜか慌てるような気持ちになった」とか。「亜麻色の髪の細さに目を細めた」とか。「どこか不安定な感情にまさかなと苦笑し」とか。

それほど多くの言葉を使わずに、直接的な言葉を使わずに表現している感じが読んでいて心地よかったです。

ユスフのその気持ちが今後どうなるかも『イスカンダル王国物語』の楽しみのひとつとなりました(`・ω・´)

 

にしてもアリシアの覚醒が思ってたんと違った(いい意味で)。

何というか、本当にまったくの別人で驚かされたというか。まさか以前のアリシアが出てきてなお読者を置いてきぼりにするなんて誰が思おうか。いや他の人らはそんなことなかったかもしれんけどワシは置いてかれた。

二重人格……⁉︎⁉︎ と思ったくらい、その変貌は凄まじく。

スピード・パワー・判断力の超人ぶりを1度に見せてくれたね……そ、想像してた1000倍くらい凄まじかった……_:(´ཀ`」 ∠):

兄を侮蔑されたことがトリガーになったワケだけど、何だろうなぁ……それを「他人の為に怒れるいい子」って安易に捉えていいのか分かんないんだよなぁ……。

快進撃そのものはゾクゾクするほど面白かったけど、一気に人間らしさが消えたようで不安にもなった私でした。そして短剣を向けられたアリシアはまた戦いの気配に怯える少女に戻ったのであったー……。

 

この昔の自分を失った状態からスタートして、昔の自分が戻って来て、また急激に失われてしまうって構図のものを今まで読んだことがなく、また新鮮だなーと思わされました。いろいろとそういう要素が多くて楽しかったなぁ(。-_-。)

 

アリシアと対立するような立ち位置にあるヘルムートやカサンドラ視点もそのひとつ。

先程、「完璧な人間を描いていない」みたいなことを書いたんですが(ザックリ)、その代わりただの愚かな人間としても描いていないんですよね。

アリシアを蔑むヘルムートはアリシアの事情を知っているこちらとしては腹の立つところなんですが(笑)、そんなヘルムートはただ驕っているだけの奴ではなかったし、成長する余地がしっかり描かれている。

カサンドラについては何なら好きになってきています(笑)。男だらけの学校で女として堂々と立っていて、アリシアへの嫌悪と嫉妬も理解できてしまう。無尽蔵に蓄えられた知識を実践で活かしアリシアを軽んじるばかりでない姿は好感が持てました。

 

「領地内で起きた騒乱を期日までに終わらせなかったら王家の兵がその領地の者を1人残らず殲滅する」という恐ろしく効率的な制度。

《黒の門》という名門王立士官学校。

生徒に年6回課される、何を試されるのか当日まで分からない試練。

 

設定もワクワク要素がたくさんあって大変面白かったです! 2巻も読み終わってるのでそっちの感想も近い内書きたいな〜♪( ´▽`)

 

~2巻感想へ続く~

 

余談。
スヴェンお前喋れるんかい!!!!wwww

 

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