鞭展開度:★★★☆☆
『香君』たる所以:★★★★★
人の道:★★★★★
【あらすじ】
「飢えの雲、天を覆い、地は枯れ果て、人の口に入るものなし」――かつて皇祖が口にしたというその言葉が現実のものとなり、次々と災いの連鎖が起きていくなかで、アイシャは、仲間たちとともに、必死に飢餓を回避しようとするのだが……。
オアレ稲の呼び声、それに応えて飛来するもの。異郷から風が吹くとき、アイシャたちの運命は大きく動きはじめる。
圧倒的な世界観と文章で我々に迫る物語は完結へ。
上巻がめちゃくちゃ気になる終わり方してるところからすぐに移った下巻。
「上橋菜穂子作品を全身で浴びてるぞ‼」……なところから、「あれ、でもこの感じは今まで読んできた作品とはまた違う……?」という新鮮なところまで。
『香君』は特に女性達が格好いい。最後まで楽しませてもらいました。
以下ネタバレあり↓(上巻感想同様『獣の奏者』『狐笛のかなた』あたりのことにも触れていますのでご注意ください)
やっぱりオアレ稲かー!!! ……と1ページ目で叫んだのを覚えている(笑)。
すっかりオアレ稲の生を歪めていてめちゃくちゃハラハラしました。そういう風にすると大体ロクなことにならないのが上橋菜穂子作品あるある……( ̄▽ ̄;)(※多分) 主に『獣の奏者』で学ばせていただきました(笑)。アレはスゴかったからなぁ。
香り、という表現までならば嗅覚としてまだ想像できなくもないけれど、”香りの声”という独特の表現にまでなるとさすがに想像を超えている……。アイシャの感覚が彼女のみのものだとなおさら実感するような。
そんな読者にも分からないアイシャのみが抱く危機感と、それを周囲に伝えるワケにはいかない、伝えても周囲が完全に理解できるワケではない感じ。そのハラハラ模様がまた良いですよね。
とはいえ、アイシャの感覚は信じてもらえないのではなくむしろ信じ込まれて信仰にまで発展せざるを得ないというところが『香君』ならではのこわいところ。
クリナやミリアもすぐに勘付くんだもんなぁ……www
個人的にこのあたり、アイシャとオラムが言い争うシーンがかなり好きでした。
アイシャ目線でここまで話が進んできたのもあるし、アイシャが好きになっているのもあって、私はどうしたってアイシャにかなり心を傾けた状態で読んでいたんだけど。
オラムの言い分も分かるし、ここでアイシャが「根本的に分かり合えない」と思っていた自分を恥じるところが何かドキッとした(笑)。自分自身も、そうやって誰かと分かり合うということを捨ててきているんじゃないかと。
絶対にそうしなくちゃいけないワケではないとも思っているけれど、何かひとつ大事なことを思い出させてくれた、改めて感じさせてくれたシーンだと思ったんだよね。何かここ、すごくリアルに感じた。
それに、『香君』ってかなり他の立場の人間の考えや主張も分からなくもないってなるというか。
……いや、それは他作品を読んでた頃の私がまだ学生で、今は社会人だからなのかもしれないけれど(笑)。
主人公のアイシャはもちろん、彼女寄りの目線で世の中を見ているマシュウやオリエ達、さらにはヂュークチやミリア、オラムにオードセンまで。
ちなみにオリエさんに毒を仕掛けたイール=カシュガは許してないからな……(いい笑顔)。
どれを選んでも他の何かを切り捨てなくてはならない、という状況は、抱えているものが多ければ多いほど頭を抱える案件で。
『救いの稲』なんて開発されてすっかり国中に広まっちまってコレどうするんじゃ……と頭を抱えながら成り行きを見守っていた前半。そして本当にシャレにならない事態が( ̄▽ ̄;)
……アイシャ達、よくあんなバケモノレベルにでっかいバッタの大群を前に普通にできたよなぁ……(遠い目)。
虫がめちゃくちゃ苦手な私(バッタもかなり上位で無理)的には白目剥いて失神案件です( ̄▽ ̄;) マジで無理( ̄▽ ̄;)
アリキ師なんて目を輝かせちゃってまぁ。。。
とはいえ、こんな状況でもそうやって楽しんでる人がいるのはちょっと救いになったというか。
ただただ生き物の脅威に怯えるだけじゃなく、そもそもこういった時代に好きなことをやる続けている女性がいるというのも元気が出るし。それに、打開策もないワケじゃない。
このあたり、私としては上橋菜穂子作品の中ではかなり心が軽くなるシーンなんじゃないか、と新鮮でした。
そして何度でも書きますが、私は全上橋作品を網羅しているワケではないので、「そんなことないよ!」ということだったら申し訳なくm(_ _)m 網羅している方々は私の尊敬すべき先輩です(笑)。
『ふたりの香君』は本当に激アツかったなぁぁぁ……!!!(泣)
毒で体が弱って今にも倒れそうなのを堪えてみんなの前に出たオリエさんが本当に格好よかった。例え香りで万象を知ることができなかったとしても、あなたはまごうことなき『香君』でした。
オリエさんを支え続けるアイシャにもグッときたし、オリエさんの築こうとしている道の為に自ら自由を手放すアイシャも本当に格好良かった。
「オリエさま、私はひとりではありません。オリエさまがおられます。ふたりなら、この宮も、孤独な檻ではなくなるはずです。一緒に行きましょう」
……こんなん胸が熱くならずにおらりょうか!!!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
上巻から思っていたことなんだけど、アイシャとオリエの関係性が1番好きかもです。アイシャがオリエを大好きなのはもちろんながら、オリエもまた最初からアイシャを思いやっていて大好きなのが伝わってきてじんとくる。女2人の絆がとにかくいい。
オリエが決してアイシャに歩ませたくなかった道。しかしオリエの築きたい道を築くべく、アイシャが自分の意志で選んだ道。もうあと1歩で引き返せないところにまで来たというのに、アイシャの意志の、なんと清々しいこと。
ここからのアイシャの逆転劇が爽快だった!!!
だって香りの分からない、香君を騙る女ではない。お前達が望む香君様がここにいるんだぞと。
ヂュークチがここでいい方向に働きかけてくれるのがまたアツかったなぁ……!!!
あのデカイバッタ群大発生の時もいい働きしてたなと。上巻序盤であまりいい印象を持てずにいたのでここでの盛り返しが印象的でした。彼の立場が見えてくるワケだしね。
そうして見事にイール=カシュガ以外の心を掴んでしまったアイシャ。しかし決して崇拝させたいワケではないアイシャ――そしてオリエ――にとっては、そこで勝ち誇れるワケがなく。
しかもここでのイール=カシュガの手の平大回転よ…………………………………………………………………。
ここまでくるといっそスゲェなと感心すらしてくるわ( ̄▽ ̄;) 私利私欲で動いてるワケじゃないのは分かってるんだけどここまで好きになれないことあります???
本当にオリエさんに毒を盛っておきながら「御身が弱っているのでは」とか言うの腹立ちまくりでしたこの野郎。花びら野郎と呼んでやろうかこの野郎。
本当に、また違う意味でイール=カシュガの思うがままになるかと思ったところを危機回避したアイシャは本当にスゴかったです。お疲れ様でした( ̄▽ ̄;)
自分の頭で考えて動ける女性というのは本当にかっこいいね。アイシャもオリエも大好きです(。-_-。)
そこからのラストが、私としては思った以上に明るくてびっくりしていました(笑)。……いやぁ、本当によかったぁ……!!!
オリエさんは死ぬまで香君であり続けるしかないのではと心配していたけれど、生きて香君宮を出れて、マシュウと一緒になれて。
何より、アイシャがあんなにも身軽な香君様になれていたことがすごくうれしくて……!!!/////
〈旅する香君〉という響きの何て素敵なことか。アイシャが今も、自分の意志で、自分で考えて身動きできていることにすごくジンときて。
「私には、香君宮は檻ではないので」って言葉に、心底ホッとした。
イール=カシュガがここでも手の平大回転で味方してくれてるのも……うん、ホッとするべきところなんだろうなぁ……www 味方であれば頼もしいは頼もしいんよな( ̄▽ ̄;)
香君であるなら確かに結婚できない身であり続けるワケだし、アイシャもそれでいいって思ってるけど、私としてはいつか恋もしてほしい、なんて思ったりもしています。
恋や結婚ばかりが幸せだとは思っていないけれど、身軽な香君様であるのでそのあたりもアイシャなら切り拓けそう、とも思ったり(笑)。何よりアイシャは素敵な人なので!
そんなワケで上橋菜穂子作品最新作、本当に最新で初めて追えました。一ファンとしてすごくうれしい(。-_-。)
そしてすごく面白かった!!!!!!
アイシャやオリエが大好きというのは既に書いている通り。植物が虫に食われるとその虫を食べてくれる虫を引き寄せる香りを放つこと、弱っている木をまわりの木々が支えてくれることが、すごく印象に残っていて。
……てっきり上橋先生のオリジナル設定なのかと思っていたら、本当にそうだったという……!!!
めちゃくちゃ感動しました。生き物って本当にすごい。植物って本当にすごい。
自分の目には見えない営みが無数に張り巡らされていると思うと、窓の外から見える植物が前よりずっとキラキラして見える。
本当に楽しませてもらいました。正式な続きもいいし番外編でもいいし出してもらいたいなぁ……!!! という願望を剥き出しにしつつwww
愛おしい物語がまたひとつ増えました。ありがとうございました!!!
余談。
実は以前他の上橋菜穂子作品の感想を書こうとしたんだけど、尊過ぎて書けねぇ……!!!と削除したことがあり。今回戦々恐々としながら書いてみたんですが、書き上げられてよかったです(笑)。