『獣の奏者 2王獣編』(上橋菜穂子/講談社文庫)

講談社文庫

鞭展開度:★★★★★
歴史の奔流:★★★★★
相容れなくとも:★★★★★

【あらすじ】
王権の象徴として、神々が遣わしたとされる聖なる獣――王獣。数々の受賞に輝く世界的注目作家、新たなる代表作。カザルム学舎で獣ノ医術を学び始めたエリンは、傷ついた王獣の子リランに出会う。決して人に馴れない、また馴らしてはいけない聖なる獣・王獣と心を通わせあう術を見いだしてしまったエリンは、やがて王国の命運を左右する戦いに巻き込まれていく――。新たなる時代を刻む、日本ファンタジー界の金字塔。

【※全開で無事すべての記事を「再掲」し終わり、今回より初出のものとなります!ここまで長かった!!やったー!!!】

怒涛の勢いで読み返しております『獣の奏者』シリーズ王獣編にさしかかりました。

前回もそうですが、”読み返している”今の視点で感想書いてまいります。思い入れもありまくりでめっちゃ語彙力不足( ̄▽ ̄;) ご容赦ください。

1人の少女の人生が国という大きな奔流と交じり合っていく様に改めて圧倒されました。

 

以下ネタバレあり↓

 

 

 

 

 

エリンのリランとの繋がりの変化が凄まじい。

これは初読みの時もいたく心に残ったことだったのですが、改めて。

親から無理矢理離され、人の目に晒され大けがをし死に向かっていく幼獣と、そんな彼女を一心に助けようとするエリン。

それが母と娘のようになって、リランが甘える様は本当に愛らしく。

でも、やっぱりリランは獣で、エリンに大ケガを負わせてしまって。エリンはそれでも、音無し笛を拒絶しエサルの言うように本当に遺書を書くほどで。

エリンが最上級生になっている頃には、もっと言いたいことを言い合えるような、ある意味でこれも家族らしい、砕けたものに見えて。(真冬に散歩に行きたいリランとこっちは寒いのにと文句を言うエリン……(笑))

けれど真王を見殺しにできなくて、エリンはリランに闘蛇の殺戮をさせてしまって。

エリンを無理矢理連れて行こうとするラザルの者達にリランが怒り狂って、エリンは止めようとしたけれどリランはエリンにまで牙を剥いて(主人公が体の一部を一生失うの、私は結構初めてめで衝撃がすごかった……T ^ T)。

エリンは音無し笛を吹いて。

1人と1頭の間に、恐怖や支配といった、隔たりができて。

そしてあのラストです。

 

何か、もう……上手く言葉にできんのですが本当にすごいなと。

ただ人と獣が仲良くなって一緒に困難を乗り越えよう、というような、そんなハッピーエンドな話ではないんですよね。闘蛇編で、まだ子どものエリンにジョウンが言ったように、人と獣は違うと、それをエリンが思い知る。

大人の冷たい、心ない言葉だと思っていたものが、現実として沁み込んでくるというか(ここで言う大人の言葉とは、ジョウンというよりエサルの言葉がほとんどかな)。

 

でもそのエサルは子どもを守る大人としていてくれてよかった人だなと。

さすがジョウンが信頼した女人です。ソヨンやジョウンのような優しさとはまた違い、指導者として厳しいところも多々ありますが、学童を守るということが当たり前にできる人です。

リランとのコミュニケーションに辿り着いたエリンの存在を王宮に報告すべきか、その会議で初めてこの人の本質に触れたような気がします。エリンの為に怒る姿が大人としてあまりにも信用できる。……エリンにも見てほしかった……!!! でもそうした面を学童には見せないのがエサル師だなぁとも思うのです。

 

信用できるのはイアルもまた然り。

というか今回、読んでいてイアルの存在がかなり大きかったんだなと実感しました。

『獣の奏者』は恋愛をメインとした話ではないし、どちらかというととにかく先がどうなるのか気になって初めて読んだ時はこの物語という奔流の中を必死にどこにあるのか分からない岸まで泳いでいたような感覚でした。なので、あんまりエリン以外のキャラクターの占める割合? ……のようなものまで、気にする余裕がなかったのですが。

 

今回、落ち着いて(※多分)読み返してみると、王獣編のこの完璧な結末に辿り着くのに必要不可欠な人物であることはもちろん、エリンと出会ったばかりなのにこうも心が通じ合っているのは運命なんじゃないかと思えたくらい。……エリンもイアルもこういう言い方嫌かなー( ̄▽ ̄;)

一目惚れというほど浮かれたものではなくて、シンパシーとでも言うんでしょうか。何となく、自分と通じる何かを感じ取っていたのかなぁと今回読んでて思いました。イアルがカザルム王獣保護場でエリンが印象に残るのは分かるんですが(緑の目だしリラン達と触れ合っているし)、エリンの方もあまり言葉を交わしていないイアルのことがその夜思い出されるのを見て特に。

 

ダミヤの「そなた、あの男が好きか」にエリンがただ無言でいたのもすごく印象的でした。

もちろん恋愛的な意味でもあるんだけど、ここの緊迫感っていうのかな。人の命がかかっているこの状況でのやり取りとして、こういうこと訊くの自体はすごく不釣り合いなんですよね。でもからかうだとか、下卑た目で見ているだとかではなく、ダミヤはやっぱり男女の機微に聡いし(それ以外にも聡い人だ)人質としてのイアルの利用価値を見極めているし、エリンもそれを感じ取っているところはあるんじゃないだろうかと思いました。それから、自分の気持ちにダミヤに踏み荒らされたくない、みたいなのもあったんじゃないかなとか。

聡い者同士の敵対したやり取りで好きでした。

 

にしても、エリンは本当に笑うとあったかい印象になる子なんですねぇ(。-_-。)

闘蛇編でも読み返してみるとそこが心に残ったというか。ソヨンもジョウンもユーヤンもイアルも笑った顔が印象に残ったようなことが書かれていて。

アニメ版でトムラ先輩もエリンに笑顔を向けられて顔を赤くしてたなぁ(ニマニマ)。

 

ジョウンの訃報が届いたところは辛かった………………………………。

辛いシーン多々あるんですがここが結構刺さった。たった4年。けれど幸せな4年だった。

エサルも悲しんでいたのがすごく印象的でした。

 

今回、ダミヤもかなり印象に残ったなぁ。

何というか、私利私欲だけであんなふるまいをしたようには見えなかったというか。初めて読んだ時はすごく嫌だなぁと思ってばかりだったけど、今読むと妙に心に残る。

シュナンと結婚する道を選んだセィミヤに、実は一瞬悲しげな顔をしたのが、何かなぁ。。。

私はどうしたってエリン側の気持ちで読んでしまうから、許せないような気持ちはあるけれども、ただ“悪い人間”だと言い切るのは違うような気がしたのでした。

 

今までの歴史からは想像もできない、愚かと断罪されてもおかしくない選択に踏み切ったシュナン。そしてダミヤに利用されシュナンと大公に刃を向けたヌガン。

ここもすごく印象的だったなぁ……。結末も含めて、とても悲しい。あのまま真王と大公とで、手を取り合えたらどれだけよかったか。結果としてエリンやイアルの助力もあってその通りになったけれど、あれほどの大きな争いを起こさずして友に在れたら、もっとよかった。

大公側は真王を弑していない、民を幸福にできないあなたが神だとは思わない、とセィミヤに名言したシュナンはまさにこれからの未来を担う若者だと思いました。

 

それからエリン、今見るとやっぱスゲェなって思ったのが、本気で権力者相手にもこびへつらわないというかさぁ……www

ハルミヤの護衛を断ったのは本当に怖かっただろうし、勇気が必要だっただろうし、でも“あんなこと”を聞かされたら断らないといけないしで……なんだけど、それ以外にもダミヤの色仕掛け(笑)が通じなかったりセィミヤに「恐れながら」って前置きながら本当に恐れてるんかっていうようなこと言うし……www 大人になった今読むとエリンの言動って結構ヒヤヒヤさせられるんだよな( ̄▽ ̄;)

 

そして“人と獣は相容れない”と体の一部を失うまでに痛感してからのリランからの救い。

正直、初めて読んだ時はここまでかなり打ちのめされていたので私もエリン同様リランが襲いかかってきたものと咄嗟に思ってしまいました。

でも違った。エリンを闘蛇の群れから救い出し、飛び立った。

あれほど憎んでいる音無し笛を吹き、鞭で叩くように従わせたのに、なぜ。

でもそうして、エリンの中で押し込めていたリランへの、何の衒いもない思いが吹き上がる。それはきっと、王獣を初めて目にした時、リランと出会った時の気持ちだ。……ソヨンやジョウンから学んでいた時のあの気持ちだ。

眼下に広がるタハイ・アゼの景色で終わるこのラストが、とても好きでした。

 

さて、そんなワケで終わりました『獣の奏者 王獣編』!!!

……実はこの後の3冊も読み返したのですが、あまりに夢中になって一気読みしてしまって、感想を書くには至らなかったという……( ̄▽ ̄;) またいつか読み返したら書けるかもしれない……かも……。←

そのぐらい、人の想いと獣の在りようとそれらに絡む深刻な歴史の奔流が面白いということで(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

エリンがこの後どんな道を辿るのかは知っていますが、彼女の数奇な運命の中に、少しでもあたたかな幸福がありますように。

 

余談。
ユーヤンが部屋に忍び込んできたエリンをカシュガンが夜這いに来たと思ってんの面白過ぎるwwwwww(学舎生活、とっても楽しかった!)

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